生前贈与は、大切な資産を次世代へ円滑に引き継ぐための有効な相続税対策の一つとして、多くの方が関心を寄せています。
しかし、具体的にどの程度の節税効果が期待できるのか、また、どのような方法を選択すれば最も効果的なのか、具体的なイメージを持つことは容易ではありません。
贈与の金額や期間を変えた場合に、将来の相続税額がどのように変化するのか、シミュレーションを通じてその影響を把握することは、より確実な相続対策を立てる上で非常に重要となります。
今回は、生前贈与による相続税の軽減効果を具体的な数値や期間の違いから解説し、効果的な生前贈与の方法について詳しくご紹介します。
生前贈与による相続税の軽減効果
相続税は、亡くなった方の遺産総額から基礎控除額などを差し引いた「課税遺産総額」に対して課税されます。
生前贈与は、相続が発生する前に財産を相続人等へ移転させることで、将来の相続財産を減らし、結果として相続税の課税対象額を圧縮する効果が期待できます。
例えば、相続財産が基礎控除額をわずかに超える場合や、相続税率の高い財産構成になっている場合など、生前贈与によって課税遺産総額を減らすことができれば、納税額を大きく軽減できる可能性があります。
贈与額ごとの相続税軽減効果の目安
生前贈与による相続税の軽減効果は、贈与する財産の総額や、それを何年かけて贈与するかによって大きく変動します。
例えば、1000万円の現金を毎年110万円ずつ10年かけて贈与する場合と、一度に1000万円を贈与する場合では、相続税の軽減効果が異なる可能性があります。
一般的に、相続財産総額から贈与した財産の額を差し引くことで、相続税の課税遺産総額を減らすことができますが、贈与した財産が相続開始日(亡くなった日)から起算して7年以内(2024年1月1日以降は17年以内)に行われた場合は、相続財産に持ち戻されるため、その期間内に贈与された分は相続税の計算に影響します。
具体的な軽減効果は、相続財産の総額、相続人の数、相続税の税率構造、そして贈与が相続開始の何年前に実施されたかによって大きく左右されるため、個別のケースごとにシミュレーションを行うことが不可欠です。
贈与期間による相続税シミュレーション結果の違い
生前贈与をいつ、どのように行うかは、相続税の軽減効果に大きな影響を与えます。
例えば、相続開始が近い将来に予定されている場合、短期間でまとまった金額を贈与すると、贈与税の負担が大きくなる可能性があります。
また、相続開始前7年以内(2024年1月1日以降は17年以内)の贈与は相続財産に加算されるため、節税効果が相殺されてしまうケースも少なくありません。
一方で、長期的な視点で、毎年110万円の基礎控除額の範囲内でコツコツと贈与を続けていく「暦年贈与」は、贈与税や相続税の負担を分散させながら、計画的に財産を移転できる有効な方法となり得ます。
シミュレーションを行う際には、相続開始までの期間を考慮し、贈与税の負担と相続税の軽減効果のバランスを見極めることが重要です。

相続税対策に有効な生前贈与の方法
相続税対策として活用できる生前贈与には、主に「暦年贈与」と「相続時精算課税制度」の二つの方法があります。
それぞれにメリットと注意点があり、ご自身の状況に合わせて適切な方を選択することが重要です。
どちらの方法を用いるにしても、計画的に、そして税法上のルールを遵守して実行することが、効果を最大化する鍵となります。
暦年贈与は年間110万円までなら相続税がかからない
暦年贈与とは、その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与された財産の合計額が110万円までであれば、贈与税がかからないという制度を活用した贈与方法です。
この基礎控除額の範囲内であれば、何度贈与しても贈与税の申告は不要であり、相続財産から除外されていくため、長期間にわたって計画的に相続財産を減らすことができます。
ただし、この制度を有効に活用するためには、贈与された資金が名義預金とならないよう、贈与者と受贈者の口座を明確に分け、贈与の事実を証明できる書類(贈与契約書など)を整備しておくことが推奨されます。
また、相続開始前7年以内(2024年1月1日以降は17年以内)の贈与は相続財産に加算されるため、相続直前の駆け込み贈与ではなく、早期からの計画的な実施が不可欠です。
相続時精算課税制度の活用メリットと注意点
相続時精算課税制度は、65歳以上の親(贈与者)から20歳以上の子や孫(受贈者)に対して、財産を贈与する際に選択できる制度です。
この制度を選択すると、累計で2500万円まで贈与税が原則非課税となり、贈与された財産は相続時に相続財産と合算して相続税額を計算・精算します。
メリットとしては、まとまった金額を一度に贈与できるため、将来値上がりが予想される資産(非上場株式や不動産など)を早期に移転できる点や、相続開始前の贈与加算期間(7年または17年)を気にせずに贈与できる点が挙げられます。
しかし、一度この制度を選択すると、暦年贈与に戻ることはできません。
また、相続時に相続財産と合算されるため、相続財産が基礎控除額内に収まる見込みの場合には、かえって相続税負担が増加する可能性もあります。
適用にあたっては、将来の相続税額や他の相続人との公平性などを慎重に検討する必要があります。
誰にいくら贈与するのが最も効果的か
生前贈与を最も効果的に行うためには、「誰に」「いくら」贈与するかを慎重に検討する必要があります。
一般的に、相続税の総額を減らすという観点からは、推定相続人の中で、将来受け取る相続財産の見込み額が多い方や、相続税の計算上、税率が高い部分に該当する方へ優先的に贈与を行うことが考えられます。
例えば、配偶者や複数の子供がいる場合、法定相続分などを考慮しつつ、相続財産が最も多くなるであろう相続人を中心に贈与額を配分することで、全体の相続税負担を軽減できる場合があります。
しかし、特定の相続人に偏った贈与は、他の相続人との間で遺産分割に関するトラブルを引き起こす原因となりかねません。
そのため、相続人全員の意向を確認し、公平性に配慮しながら、遺言書なども含めた総合的な資産承継計画の一環として、専門家である税理士等に相談しながら進めることが、最も確実で円滑な方法と言えるでしょう。

まとめ
生前贈与は、計画的に実行することで将来の相続税負担を軽減できる有効な手段ですが、その効果は贈与額、贈与期間、そして選択する制度によって大きく異なります。
年間110万円までの暦年贈与は、贈与税の心配なく財産移転を進める上での基本となりますが、相続開始前の財産への加算ルールには注意が必要です。
一方、相続時精算課税制度は、まとまった規模の贈与に適していますが、制度の選択には慎重な検討が求められます。
誰に、いつ、いくら贈与するのが最も効果的かは、個々の家庭の資産状況、相続人の構成、そして将来のライフプランによって最適解が異なります。
自身の状況を正確に把握し、税理士などの専門家と連携しながら、長期的な視点に立った最適な生前贈与計画を立てることが、円滑かつ公平な資産承継を実現するための鍵となるでしょう。