相続が発生すると、多額の相続税が課されることがあります。
しかし、いざ納税の時期が訪れてみると、遺産が現金ではなく不動産ばかりであったり、遺産分割協議が難航したりするなどの理由で、納税資金の準備に頭を悩ませるケースは少なくありません。
このような状況に直面した場合でも、諦める必要はありません。
税法には、納税者の負担を軽減し、円滑な相続税の納付を支援するための様々な制度が用意されています。
これらの制度を理解し、適切に活用することで、困難な状況を乗り越えることができるでしょう。
相続税が払えない場合の対策
延納制度で分割納付する
相続税の納税額が1万円以上であり、かつ、金銭で一度に納付することが困難な場合に利用できるのが延納制度です。
この制度を利用するには、税務署長の許可を得る必要があり、原則として納付すべき税額が100万円を超える場合、納税額の見込額に相当する担保の提供が求められます。
延納期間は最長20年(不動産などの取得費に充てる場合や、災害などにより延納が必要と認められる場合は最長30年)で、利子税がかかります。
利子税の割合は、年によって変動する公定歩合などを基に定められます。
延納の申請は、原則として法定納期限(相続開始の日から10ヶ月以内)までに行う必要があります。
物納できる財産を活用する
本来、相続税は金銭で納付することが原則ですが、延納によっても金銭での納付が困難な場合に限り、物納が認められることがあります。
物納できる財産には、相続財産であった不動産、船舶、航空機、株式、公債、証券、登録国債などがあります。
ただし、物納できる財産には順序があり、まず金銭、次に不動産、そしてその他の財産の順で、それでも不足する場合に他の財産が充てられます。
物納を希望する財産は、税務署がその価値を評価し、物納の適格性があると判断したものに限られます。
物納の許可を得るためには、延納や相続財産の売却・贈与など、他の手段では納税が困難であることを証明する必要があります。
借入や財産売却で納税資金を準備する
相続税の納付期限が迫っているものの、延納や物納の条件を満たさない、あるいはそれらの制度を利用したくない場合には、金融機関からの借入や相続財産の売却によって納税資金を準備する方法が考えられます。
金融機関からは、相続税の納税資金を目的としたローンが提供されている場合があり、これを利用して一時的に資金を調達することが可能です。
また、相続財産の中に換金性の高い不動産や株式などがあれば、それらを売却して納税資金に充てることも選択肢となります。
ただし、不動産などは市場の状況によって希望する価格で迅速に売却できるとは限らず、また、売却に際しては相続人全員の同意が必要になる場合もあります。

遺産分割が終わらない場合の相続税の支払い
預貯金の仮払い制度を利用する
遺産分割協議がまとまらない間は、原則として相続財産である預貯金は凍結され、引き出すことができません。
しかし、相続税の申告・納付期限は相続開始から10ヶ月と定められているため、この間に納税資金が用意できないという事態に陥ることがあります。
このような場合に活用できるのが、相続財産である預貯金について、遺産分割協議が終了していなくても、一定の範囲で仮払いを受けられる制度です。
この制度を利用すると、相続人一人あたり「150万円」まで、または「(預貯金総額÷法定相続人の数)×その相続人の法定相続分」のいずれかのうち少ない金額までを、金融機関で払い戻してもらうことができます。
これにより、納税資金の一部を確保することが可能になります。
納税資金分のみ遺産分割協議を行う
遺産分割協議が長期化し、相続税の納付期限までに全体での合意形成が難しい場合、納税資金の確保を最優先するために、納税に必要な金額に相当する財産のみを対象とした、限定的な遺産分割協議を行うという選択肢もあります。
例えば、被相続人の預貯金のうち、相続税額に相当する金額を特定の相続人が取得する、あるいは、不動産の一部を換価して納税資金を捻出することを目的として、その不動産を特定の相続人が取得する、といった内容で一旦合意します。
この方法により、納税期限までに必要な現金を用意し、延納や物納といった手段に頼らずに納税を完了させることができます。
ただし、これはあくまで暫定的な合意であり、後日、残りの遺産分割協議を改めて行う必要があります。

まとめ
相続税の支払いが困難な状況は、多くの相続人が直面しうる現実です。
しかし、延納制度による分割納付、物納による現物納付、あるいは借入や財産売却といった資金準備の方法など、税法には納税者の負担を軽減するための多様な選択肢が存在します。
特に、遺産分割が完了していない場合でも、預貯金の仮払い制度の利用や、納税資金分に限定した遺産分割協議といった、状況に応じた具体的な対策を講じることで、期限内の納税を可能にすることができます。
これらの制度や手続きは複雑な場合もあるため、専門家である税理士に相談し、ご自身の状況に最適な解決策を見つけることが、円滑な相続を実現する鍵となるでしょう。