相続手続きは、多くの書類の収集や煩雑な申請作業が伴い、慣れない方にとっては大きな負担となり得ます。
特に、専門的な知識が求められる場面も少なくありません。
こうした状況において、専門家へ手続きの一部または全体を代行してもらうことは、相続人の負担を軽減し、スムーズな遺産承継を実現するための有効な手段となります。
しかし、どこまでを専門家に任せることができ、自身はどのような役割を担うべきなのか、その範囲を正確に理解しておくことは、後々のトラブルを防ぐためにも非常に重要です。
相続手続き代行で依頼できる範囲
遺産調査や戸籍収集は代行範囲内
相続手続きの第一歩となる遺産の調査、すなわち故人が所有していたプラスの財産(預貯金、不動産、有価証券など)とマイナスの財産(借金やローンなど)を正確に把握する作業は、専門家への依頼が可能です。
また、相続関係を証明するために必要となる戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍といった書類の収集も、専門家が代行してくれます。
これらの書類は、故人の出生から死亡までの連続した戸籍を、本籍地の市区町村役場や法務局など複数の機関から取り寄せる必要があり、専門知識や手間を要するため、代行を依頼するメリットは大きいと言えます。
名義変更や各種申告手続きも一任できる
遺産調査と戸籍収集が完了した後、具体的に遺産を相続人名義に変更していく作業も、専門家に一任することが可能です。
例えば、金融機関における預貯金の解約や名義変更、法務局での不動産の名義登記(相続登記)、さらには自動車の名義変更といった手続きについて、専門家が代理で進めてくれます。
また、相続が発生した年の所得税の申告や、一定額以上の財産がある場合の相続税の申告・納税といった税務関連の手続きについても、税理士などの専門家に依頼することができます。
これらの多岐にわたる手続きをまとめて専門家に任せることで、相続人の負担は大幅に軽減されます。
専門家ごとに得意分野が異なる場合がある
相続手続きには、司法書士、行政書士、税理士、弁護士といった様々な専門家が関わりますが、それぞれに得意とする分野や、法律上独占業務となっている範囲が異なります。
例えば、不動産の相続登記手続きは主に司法書士が担当し、相続税の申告や税務相談は税理士が専門となります。
遺産分割に関する紛争が起きている場合や、複雑な遺言書の作成、遺産分割協議書のリーガルチェックなどは弁護士の専門分野です。
行政書士は、遺産分割協議書の作成補助や各種許認可申請などを担当することが多いですが、登記や税務申告はできません。
そのため、依頼する内容に応じて、最適な専門家を選ぶことが重要となります。

相続手続きを専門家に任せる際の注意点と自分の役割は?
最終的な意思決定は相続人自身が行う
専門家は、相続手続きを円滑に進めるための専門的な知識やスキルを提供し、煩雑な作業を代行してくれますが、相続に関する最終的な意思決定権は、あくまで相続人自身にあります。
例えば、遺産をどのように分割するか、特定の財産を誰が相続するか、あるいは相続放棄をするかしないかといった重要な判断は、相続人全員で話し合い、決定しなければなりません。
専門家はあくまでアドバイスやサポートを行う立場であり、相続人としての責任や権利が専門家に移譲されるわけではないことを、十分に理解しておく必要があります。
専門家への情報提供は正確かつ迅速に
専門家が依頼された手続きを正確かつ効率的に進めるためには、相続人からの正確で十分な情報提供が不可欠です。
故人の財産に関する詳細情報、相続人全員の氏名や連絡先、遺言書の有無、相続人間での取り決めなど、手続きに必要な情報を、できる限り正確に、そして遅滞なく専門家に伝えることが求められます。
情報提供が不十分であったり、誤っていたりすると、手続きが中断したり、修正のために余計な時間や費用が発生したりする可能性があります。
専門家との信頼関係を築き、円滑なコミュニケーションを図ることが重要です。
遺産分割協議書の作成・署名捺印は相続人が行う
相続財産の分け方について相続人全員で合意に至った場合、その内容を明確にするために遺産分割協議書を作成します。
この協議書の作成自体は、専門家がサポートしてくれるケースが多いですが、協議内容の最終決定、そしてその書面への署名・捺印は、原則として相続人全員が行う必要があります。
これは、遺産分割協議が相続人全員の意思に基づいて成立するものであることを法的に証明するために、極めて重要なプロセスです。
専門家はあくまで書面の作成を補助する役割であり、相続人としての意思表示そのものは、ご自身で行わなければなりません。

まとめ
相続手続きを専門家に依頼することは、複雑な作業を効率的に進め、相続人の精神的・時間的負担を軽減するための有効な手段です。
遺産調査や戸籍収集、各種名義変更、税務申告など、多くの部分を代行してもらえます。
しかし、専門家はあくまで手続きのサポーターであり、遺産の分け方といった最終的な意思決定や、遺産分割協議書への署名・捺印は、相続人自身が行うべき重要な役割です。
専門家へ正確かつ迅速な情報提供を行うこと、そして依頼内容に応じて適切な専門家を選ぶことも、円滑な手続きの鍵となります。
専門家との連携を密にしつつ、ご自身の役割を理解することで、納得のいく相続手続きを実現できるでしょう。